大阪地方裁判所 昭和41年(ワ)5457号 判決
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〔判決理由〕三、次に被告の請求異議事件において支出した弁護士費用金五〇万円をもつて相殺するとの主張につき判断する。
(一) 第一項(一)で判示した如く、被告は原告より昭和三五年一〇月一〇日金三五〇万円を、弁済期日昭和三六年四月三日、利息一ケ月金一〇五、〇〇〇円の約定で借受け、担保として本件物件に原告のため抵当権設定登記並びに代物弁済予約に基づく所有権移転請求権保全仮登記をなした。
(二) <証拠>によると次の事実が認められる。
被告の代理人弁護士坂本秀之より原告を相手方として、「趣旨‥相手方は申立人に対し、申立人らが負担する本件物件の明渡義務を昭和三六年四月三日まで猶予せよ。原因‥(1)申立人は昭和三五年一〇月三日相手方に対し、同年一〇月五日明渡すとの約定で本件物件を売渡した、(2)ところが申立人は諸般の都合で右期限に明渡し不能となつたのでその猶予を申出たところ、相手方より同年一〇月一〇日まで明渡さないときは売買契約を解除するとの催告をうけた、(3)その後申立人は相手方に対し、本件物件を昭和三六年四月三日まで賃借したいと申出たところ、事由のいかんを問わず右期限に申立人が明渡すことを条件にその申入れを許容される見通しがついたので和解勧告をうけたい」旨の和解の申立をなし、その結果昭和三五年一二月一〇日、原告代表者外海波吉及び右坂本弁護士出頭の席上「(1)相手方はその所有する本件物件について、これを占有する申立人に対しその明渡期限を昭和三六年四月三日まで猶予するものとし、(2)右明渡済に至るまで申立人は相手方に対し遅延損害金として一ケ月につき金一〇五、〇〇〇円を毎月末日限り先払いすること、(3)相手方は申立人において損害金の支払いを一回でも怠つたとき、本件物件を転貸したとき、他の債権者より差押などをうけたときの各一に該当したときは、期限内といえども何らの通知又は催告をすることなく、即時に本件物件の明渡を求めることができる」旨の和解が成立したとして和解調書(昭和三五年(イ)第一五三三号)が作成された。
(三) <証拠>を綜合すると次の事実が認められる。
原告は本件物件明渡の強制執行の為、昭和三六年三月一三日付で右和解調書に執行文の付与をうけて(この点原告において明らかに争わないので自白したものと看做す)、執行吏に委任し、執行吏は同月一七日執行のため本件物件の所在地に赴いたが、これより先被告が右和解調書の無効を主張して請求異議事件の訴を提起し、同時に和解調書に基づく強制執行停止決定を得ていたので、右執行は本案判決あるまで停止された。右請求異議事件(昭和三六年(ハ)第三一八号)につき第一審大阪簡易裁判所は昭和三八年八月六日「主文‥被告(本件原告以下同じ)より原告(本件被告以下同じ)に対する大阪簡易裁判所昭和三五年(イ)第一五三三号事件の和解調書に基づく強制執行はこれを許さない。本件につき当裁判所が昭和三六年三月一六日なした強制執行停止決定はこれを認可する。理由‥原告と被告との間に本件物件につき売買契約が締結されたことを認めるに足りる証拠はなく、もちろん原告が坂本弁護士に対し、本件物件の売買に関し被告との間に和解をなす権限を授与したことを認めるに足りる証拠はないから本件和解は原告に対し無効である」旨判決があり、控訴審である大阪地方裁判所(昭和三八年(レ)第一八〇号)は昭和三九年一二月二四日「主文‥本件控訴を棄却する。理由‥被控訴人(本件被告以下同じ)より控訴人(本件原告以下同じ)に対し、本件物件を担保に金三五〇万円融資の依頼申入れがあり、控訴人において右物件の所有権を買戻約款付売買で控訴人に移転するよう要求したが、結局被控訴人の希望どおり本件物件に抵当権を設定しかつ代物弁済の予約をする方法で融資することとなり、本判決第一項判示の当事者間に争いない事実のとおり消費貸借契約が成立し、右各登記がなされた。その際被控訴人は控訴人に即決和解調書作成の為白紙委任状を交付したが、右交付当時から被控訴人の右借受金返済のいかんにかかわりなく、被控訴人の控訴人に対する本件物件の明渡義務が確定していて、その最終猶予期限を昭和三六年四月三日とし、これを前提として被控訴人に損害金支払いの義務があるとするかの如き合意ないし了解はなかつた。その後、控訴人の依頼に基づき、司法書士事務所は右委任状を利用して坂本秀之弁護士を被控訴人の代理人に選任し、同弁護士が被控訴人の代理人として、被控訴人不知の間に、本判決第二項(二)判示の如き和解の申立をなし和解調書が作成された。被控訴人は右和解成立に至るまで坂本弁護士に会つたことはなく、右の如き和解条項が作成されるについても全く関与しなかつたが、一方坂本弁護士は被控訴人の代理人として本件和解調書の正本の送達をうけておきながら、これを司法書士事務所に渡したまま被控訴人に連絡しなかつた。以上の事実関係よりすると、被控訴人には本件和解条項をもつて和解する意思を終始有していなかつたものというべきであり、本件和解調書は被控訴人に対しては無効である」(なお「 」内は当審判示を引用したもの)旨判決があつた。右判決に対し上告したが、昭和四〇年五月二一日上告却下され(右日時につき原告は明らかに争わない)該判決は確定し、被告は同事件の訴訟代理人弁護士真柄政一に対し手数料及び報酬として金五〇万円を支払つた。
(四) 以上原、被告の消費貸借の内容、和解申立の趣旨及び理由、和解条項の内容、和解成立の際原告代表者本人が立会つていたこと、請求異議事件の訴提起の経緯、その判決の内容理由などに照らすとき、原告が被告の本件物件に対してなした右和解調書に基づく強制執行は、同和解調書が被告との間に有効に作成されたものでないことを知りつつなした不法のもので、被告はこの侵害を防ぐため弁護士真柄政一に委任して請求異議事件の訴を提起し、同時に執行停止決定を得、右判決の確定をまつてその手数料及び報酬として金五〇万円を支払つたことが明らかである。我民訴法は弁護士強制主義をとつていないが、本件の如く不法執行を免れ自己の権利を守る為弁護士に委任して請求異議の訴を提起し、執行停止の申請をして相当の手数料及び報酬を支払つたときは特段の事情のない以上この額は不法執行により通常生ずべき損害というべきで、本件全証拠によるもこれを不当とする特段の事情はない。そして請求異議事件の訴額即ち訴提起当時の本件物件の評価額は金三、四五七、六〇〇円であつたことは原告の明らかに争わないところであるから自白したものと看做すところ、被告が第一審から上告審までの手数料及び報酬として支払つた金五〇万円は右訴額の一割五分弱であり、全額相当な手数料及び報酬の範囲内に属するものと認めるのを相当とする。(中田耕三)